○ △ □ – まる

連載 すずなり

工房に入ると甘く香ばしい香りが立ち込めている。奥に目をやると、熱せられた鉄板の上に平たい卵色の○が規則正しく並んでいる。振り返ると、今度は深い緑色の○。どうやら、思わず目を閉じて香りを思い切り吸い込みたくなるようないい香りはここから来ているようだ。

それは、次々に仕上がっていくどらやきと抹茶どら焼きの生地。規則正しく並んだ○は店頭に並ぶどらやきの姿が容易に想像できるほど、どれも大きさも厚さも均一に美しく焼きあがっていく。しかし驚いたことに、どこにも同じ大きさの○を保つための目安となる線や型は見当たらない。どらやきの生地を焼いているのは若い女性の職人。抹茶どら焼きを焼いているのは、鈴懸の工房で菓子ひと筋に何十年も菓子を作り続けている大ベテランの男性の職人。とろみがあり少し重たいタネを、深さの浅いおたまを使い大きなボウルから掬い上げ、くるんと回して一定の量で切る。そして熱した鉄板にふわりと○を描く。

鈴懸の職人たちは誰でも、どの菓子でも作り上げられる技術をそれぞれが共有しているという。職人達は皆、やさしく寡黙だ。男性も女性もベテランも新人も、誰もが同じく計ったかのように確かな目分量で毎日同じ菓子を焼き上げていく過程を眺めながら、寡黙な職人たちが呼吸を合わせて技術を伝承していく、やさしい時間の流れを感じた。

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