建てる目、撮る目(前編)

連載 すずなり

鈴懸をイメージするとき、お菓子だけでなく、今ではその店構えも皆さんのイメージソースの一つとなっているのではないでしょうか。博多にある鈴懸本店を始めとする福岡に5店、東京に3店ある全ての店舗のデザイン・設計をしてくださっているのが二俣公一さんが主宰するケース・リアルです。二俣さんとの出会いのきっかけは、鈴懸のお菓子や働く人々、そして店舗の姿を撮影し続けているカメラマン、水崎浩志さん。すでに鈴懸で撮影の仕事を始めていた水崎さんのポートフォリオを店主の中岡がパラパラと見ていた時に、二俣さんが手掛けられた建築物を写した写真が目に留まったことから始まりました。それは約20年ほど前のこと。当時、水崎さんはカメラマンとしてフリーランスになったばかりで、二俣さんもまだ駆け出しで和菓子店の店舗設計の経験は無かったといいます。そんなお二人としっかりタグを組み始めたのは2007年の新宿伊勢丹店の店舗改装から。そして2008年の本店や、現在に至る各店舗の設計へと続きます。そんな長年に渡って鈴懸の姿をつくり、写真として残してきてくださったお二人に、改めて鈴懸の仕事についての取り組み方を伺ってみました。

 

設計士や建築士、カメラマンやデザイナーなどクリエイターであれば、クライアントから依頼された案件について、まずはそれぞれが思う〝在り方“を提案するものですが、鈴懸の場合は〝普通“の仕事の進行のされ方と少し違っているようです。「普段もクライアントに聞き取りをして対話をしながら造っていくのですが、中岡さんとの対話、つまりは鈴懸との対話はその積み重ね方が独特なんです。」と二俣さんは言います。カメラマンの水崎さんも同意して「求められているものをどう表現するかを考えていく時に、対話を重ねて、自分の場合は中岡さんとだけでなく、被写体となる商品との対話も積み重ねて、腑に落ちる瞬間が目から鱗という感覚ではなく、じわ〜っと色んな要素が塵のようにトントントンと積もって形づくられていく感覚なんですよね。」と、うなづきます。対話を重ねていくことで、理屈ではなく感覚的に〝どうすべきか“が、自ずと道筋が見えてくるといったところでしょうか。

 

鈴懸における表現の仕事は、造り手側が全力の準備をして、これが最適と思ったことを形にして提示したものに対して、良い・悪い、採用・不採用といった判断がなされるのではなく、鈴懸(店主)側が一旦、提案されたものを受け止めて考え、どう思ったかを造り手に返す。その返事を造り手側はどう感じ、どう考えるのか。そこでの対話を通して、想像力や持っている知識や感性の〝掛け合い“を、お互いが楽しみながら更に対話を重ねていく。そこには本来、クライアントとしての発注側である店主と、二俣さんや水崎さんといった造り手側といった単純な関係ではなく、目に見えない到達点に向かって一緒に探りあっていくことに仕事の面白さが潜んでいるとお二人は感じてくださっているようです。クライアント側の意向に加減して造り手が迎合することはなく、お互いがやりたいこと、良いと思うことについての思いを出し合った結果、それぞれが納得した時に到達した積み重ねが今の鈴懸の8店舗なのです。

 

 

(二俣さん)

時間をかけ、話し合いながら仕事を進めていく現場は決して楽というわけではないですが、対話を重ねて造ること自体をお互いが楽しめることで納得もできるし、何よりも前向きにマインドをキープできる空気感があるんです。もちろん仕事が発生する場合、何かしらの目的やテーマはあるものの、鈴懸での仕事の場合は腑に落ちるまではじっくりと時間をかけ、決め急がない。鈴懸の型といったものは、今となってはできてきたけれども、その先に常に自由度を持っておくことが大事だなと感じています。

 

(水崎さん)

表現の自由度が、責任と同じくらい高いと感じています。それは、「やっぱり和菓子といえば京都。自分たちのような博多の地で営む和菓子店は新参者。だからこそ形式に縛られないことを強みや利点としてやっていければ良いな。だから考え方を固めない。」という、仕事を一緒に始めた頃に中岡さんが言われた言葉を今でも時折、思い出しながら仕事を進めていっています。僕が鈴懸の写真を撮るときに忘れてはいけないことだなと。

 

 

そんな風に鈴懸での仕事を受け止め、今でも一緒にいろんなことに取り組んで頂けているお二人は、それぞれ店舗設計と写真撮影という違う表現の仕方ではありますが、「鈴懸のイメージは固まってきているけれども、いつまでも完成はない。」と共通して思われているようで、それは店主の中岡も同じように考えています。鈴懸という型がなんとなくできてきた今でも、造り手側がなるべく隙を見つけて面白がる自由さを諦めない。自由度があるからこそ、つきつめて考えられる。それは20年ほど前にお二人が鈴懸との仕事がスタートした時点から今も変わらず続いているようです。決して完成はなく、〝今“における鈴懸のベストな表現を試行錯誤しながら、いつも探り続けることを楽しんでいる。二俣さんが手掛けた店舗の空間や、水崎さんが撮った写真は、店主とお二人がそんな風に対話を重ねた結果現れた鈴懸の今の姿です。長年一緒に造ることや表現することを楽しみながら鈴懸を形づくってくれる造り手がいることは、幸せなことなのだと思っています。

 

さて次回は、そんなお二人に取り組んでいただいている店舗設計や写真撮影について、具体的なエピソードも交えてご紹介させていただこうと思います。いつもお越しいただいている店舗や、WEBなどでお目にしていただいてる写真に潜む造り手の思いを紐解きます。どうぞお楽しみに。

連載 すずなり

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