
すっかり天高く、時折吹く風も心地よい秋風となってまいりました。日頃は本社内の工房で、店頭に並ぶお菓子
づくりに勤しんでいる職人たちですが、時々イベントで振る舞われるお菓子や、お茶会の席に用いられるその時
限りの上生菓子のご注文をいただき、新しい試みに挑戦したり、現地に伺ってその場でお菓子をお作りする機会
をいただきます。この秋、私ども鈴懸も店舗を構えさせていただいている福岡天神岩田屋が創業90周年を迎え
ます。この岩田屋の特別な節目の催しとして、有田を代表する日本屈指の名門窯・柿右衛門窯の器3種に、鈴懸
のお菓子を合わせてお客様にご提供する機会をいただきました。温かさのある乳白色をした濁手に“余白の美”が
いきた柿右衛門の器。その中から、一つは柿の葉型に、柿の実がぽってりと立体的に乗った愛らしい姿をした「染
錦 柿葉形 皿」、そして鮮やかな色合いと緻密に描かれた地紋が美しい「染錦 地文 4.5 寸菊形 皿」と、柿右衛
門ならではの乳白色に錦手が映える「錦 地文 4.5寸菊形 皿」です。これらの器と美しく調和し、今の時季なら
ではの秋らしさを存分に感じていただけるお菓子を鈴懸の職人長がお作りさせていただきます。
赤く熟した柿と大きな葉のフォルムが美しい柿葉形皿に合わせるお菓子は「茜雲」。形はシンプルながら市田柿
の干し柿が入った濃厚な熟柿のような味わいの羊羹です。染錦地文菊形皿には、その器を彩る繊細で美しい柿右
衛門ならではの絵付けをお楽しみいただけるよう、真ん中にそっと白くふくよかな「えくぼ饅頭」を。薯蕷饅頭
に鮮やかな紅の点が施され、えくぼがある微笑む表情を映したお饅頭で、お祝いのお席にふさわしいお菓子です。
今回は特別に栗あんを忍ばせ、お饅頭を開くとやさしい黄色が華やかさを添えます。そして繊細な赤絵と乳白色
の濁手とのバランスを存分に楽しめる白地の錦地文菊形皿には、鮮やかに色づいた「通天(つうてん)」を合わせ
てご提供します。「通天」とは、京都の紅葉の名所でしられる東福寺の通天橋周辺でよく見られる3枚葉の特殊
なカエデです。通常よく目にする真っ赤に染まる “イロハモミジ”とは葉の形状が違うだけでなく、黄金色が美し
い風情をかもします。柿右衛門の品の良い乳白色に合わせ、形も色も少し落ち着いた大人っぽい印象を与える通
天紅葉で秋の訪れを楽しんでいただければと思います。

また別の日には、北九州市の指定有形文化財である旧安川邸にて「邸宅和菓子」と題し、職人長が赴いてお客様
の目の前で上生菓子を仕立て、できたての和菓子をお召し上がりいただく催しにお呼びくださいました。普段店
頭に並んでいる上生菓子だけでなく、この時だけのお作りとなる練り切りで仕立てた真っ白の菊が黄身あんを包
む「菊の香」など、数種からお好きなものをお選びいただけます。上生菓子はできあがった先から乾燥が始まっ
てしまいます。もちろん店頭に並んでいる状態でも美味しくお召し上がりいただけるようお作りしておりますが、
職人が目の前で仕立てた作りたての上生菓子の美味しさは格別だと思うのです。なかなか体験できない味わいを
お楽しみいただける特別な機会です。今回のような名窯の器に合うように、色合いや形状、季節感、味わいなど
を考えぬいたお菓子をご提供したり、お客様の目の前で職人がお作りしたものをすぐに召し上がっていただける
機会は、職人にとっても感性や技術をさらに磨くことのできる嬉しい体験であることに間違いありません。普段
は見ることのできない伝統文化に基づいた職人の技をご覧いただけることで、和菓子への興味や関心を深めてい
ただく時間となれば嬉しく思います。とてもシンプルな材料で、技術を駆使して季節を表現し、味わいを幾重に
も広げる和菓子。職人の手捌きだけでなく、どんな色を付け、どんな形状にすると花や葉を形づくることができ
るのかなど、その意匠や菓子名からも日本文化ならではの美しさや豊かさを感じ取っていただけるはずです。
※鈴懸職人長上生実演予定
日時:2026年10月28日水曜日午後
場所:新宿伊勢丹店鈴懸
鈴懸の職人長自らが店頭で、この日だけに限った特別な上生菓子をつくり、販売させていただきます。
