ひと角の四季

連載 すずなり

鈴懸の店舗でショーケースに並んだお菓子とともに、お客様をお迎えする大切な役割を果たす一つが季節の花々です。和菓子の世界は一年を通して、日々移ろう四季が彩る自然の風景や、日本人の暮らしぶりを豊かにする折り目ごとの行事を表すものが多く存在します。今を生きる私たちにとっては、せわしなく時間が過ぎているようで、そこには日々の時間の流れを豊かに感じ取る術が日本の暮らしには古くから息づいているのです。和菓子をお求めになるときには、そんな彩りある時の中で私たちは過ごしていることを感じていただきたいと、店頭に季節の花を活けてお客様をお迎えしています。鈴懸の店舗の中でも福岡天神岩田屋店、大丸福岡天神店そして新宿伊勢丹店では花とともに、より楽しんで季節を感じていただけるように、その時期ならではのお菓子を合わせてディスプレイしております。この3店舗の花前のディスプレイを担当しているのは、岩田屋店のスタッフである力丸さんと、本店スタッフの水崎さんの二人です。

普段、二人はそれぞれ違う店舗でお菓子の販売業務に携わっております。それに加えて旬を迎えるたびに次々と入れ替わる鈴懸店舗全体のお菓子の商品ディスプレイと、先述の3店舗の花前ディスプレイという大切な役割も担ってくれています。二人の勤務店舗が違うだけでなく、各店舗ごとに店構えやお菓子を並べる手焼きの器も一枚ずつ異なるため、福岡市内のみならず東京の店舗へのディスプレイも考えるのは、さぞかし大変なことだろうとお話しを伺ってみれば、実に楽しそうに自由な発想を巡らして毎回取り組んでおられました。まずは、販売されるお菓子の切り替え表をもとに、その時々にお客様にお薦めしたいお菓子をメインとしたディスプレイイメージを簡単にスケッチして、敷物や器は何を用いるか、配置はどうするかなど、こと細かに頭に浮かんだ姿を描きます。それをお互い、顔を合わせたりLINEや電話を使ってイメージを共有します。福岡市内の店舗のディスプレイの場合は、実際に店舗に赴いて試すこともできるので比較的意思の疎通は取りやすいものの、東京では二人がイメージしたものを実際に手を動かしてディスプレイするのは伊勢丹店のスタッフです。この距離のある人との意思の疎通に難しさがあると水崎さんは言います。例えば、「棹菓子を1本左において、カットしたものを右に並べてディスプレイしたい」としても、人によって並べ方、倒し方の角度や重なり方などなど良いと思う感じ方は異なるため、イメージした通りに自分以外の方に飾ってもらえるとは限りません。お菓子の現物が揃っている場合は、本物のお菓子を使ってディスプレイイメージを作り、写真に撮って送ることで、ほぼ間違いなく再現は可能です。しかし和菓子は季節の旬の素材でつくるため、ディスプレイの準備をしている時点では、まだお菓子が作られていないことも多々あるのです。新商品などは特に、東京のスタッフは販売開始となるその時まで、一度も目にすることが無いこともあり得るのです。そんな商品をディスプレイに使用する場合は、ひと工夫が必要となります。

イメージスケッチや言葉だけで伝えるには今ひとつ分かりづらく「どうすれば明確に分かってもらえるんだろう‥‥」と悩んでいた水崎さんの目に入ったのは、自宅でお子様が遊んでいたレゴブロック!それを用いて並び方や倒し方の角度を再現して画像で送ったら、即解決したのだとか。ディスプレイの本職の方が駆使するようなパソコンソフトなんて不要。手段はアナログでも、伝えたい思いが明確にあれば距離を飛び越えて伝わるものです。同じように毎日、朝早くから本社工房でつくられるお菓子を美しく、それぞれの美味しさを福岡・東京に8店舗ある鈴懸の店舗ごとにしっかりとお客様に感じ取っていただくために大皿への配置の仕方も一見いつも変わらないように見えますが、細かく力丸さんと水崎さんの二人は検討をくり返しているのです。毎日丁寧に作ってくれる職人たちの思いを受け、お客様にちゃんと伝え、お客様にも喜んでいただけるように。そして、鈴懸らしい姿で全店舗の店頭で展開されるように、特別なことをするのではなく、持ち得る感性と手段で試行錯誤の毎日なのだとか。

鈴懸の店頭で控えめながらも華やかに季節を演出する花活けをしてくれているのは、GARGOYLEの松下大志さん。松下さんは、鈴懸に入社する前は花屋に勤務されていた力丸さんの元同僚です。今では松下さんに鈴懸の花はお任せしている力丸さんですが、息の合う松下さんと力丸さんが手がける花とディスプレイは寄り添うようにお互いを引き立て合います。力丸さんも、水崎さんも「ディスプレイを手がけるときの主役はあくまでもお菓子。奇をてらうことなく、お菓子が意味するものを表現したい。お菓子は本物を用いますので、小道具を合わせるとしても生きている植物や器など、お菓子を食べていただく時に自然にあるもので表現するように考えています。」と話してくれました。お菓子を持ち帰られた方がお客様にお出しする時や、ご自身で楽しまれる時の盛り付けなどのヒントや、会話のきっかけに少しでもなればと考えているとも話されていました。力丸さんも水崎さんも、ディスプレイのアイディアは新しいものや、珍しいものを常に探して意識しいるということはなく、特別なことをせずに、普段生活している中で目にする自然のままの姿を表すことを心がけているのだとか。さて12月は1日から椿餅や織部饅頭が店頭に並び始めます。ディスプレイもこの2つを用いて。寒さが日々増すこの時期に深い緑色をした光沢のある美しい椿の葉の重なりを愛でながら、鮮やかな緑色が映える織部の器でお茶とお菓子を愉しまれるひとときをイメージされたとのこと。どうぞ、店頭の一角の小さな空間ではありますが、お菓子とともに巡る季節をお楽しみください。

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