節分とは、各季節それぞれの始まりの⽇。2⽉の節分は⽴春の前⽇で、この⽇を境に今年の春が巡りだします。鈴懸の⼯房はひと⾜先に、2⽉1⽇から春の空気が漂い始めました。1⽇の朝、⼯房⼊り⼝の扉を開けた途端にふわ〜っと⾹る独特な爽やかさは、蓬です。この⽇から登場する蓬乃餡餅の仕込みが早朝から始まっています。お客様からのお声だけでなく、実は鈴懸の社員や職⼈たちの間でも⼈気の⾼い蓬乃餡餅。味もさることながら、このどこか懐かしいような、す〜っと⼼落ち着くような⾹りに春の訪れを感じ取り、少しだけ気持ちが軽くなるような気がするのも、この蓬乃餡餅の登場を⼼待ちにしている⼈が多い理由かもしれません。
朝つきの杵つき餅は、もちもちというよりも、むしろ、とろとろに近い柔らかさ。いわゆる餅として⾷べられる 餅をつくる⼯程よりも回数を多くつき、加⽔して、少しの糖分と塩を加えて、さらに何度も何度もつき重ねます。 そこに蓬を加えることで、より引きが強い柔らかな餅として仕上げていきます。主役の蓬は宮城県蔵王産。さまざまな産地の蓬を試した結果、⾊・⾵味ともに理想的だと、鈴懸ではこの蔵王産のものを使⽤して20 年ほどと なります。そんな蓬は、葉の部分だけでなく煮汁まで加えることで⾊も⾹りも濃く残して餅に合わせ、少し塩を して⽢みをひきたたせた⼗勝産⼩⾖のつぶあんを包みます。⽢味と塩味、そこにほんのりとした苦味ある独特の 爽やかさを持つ蓬の⾵味が加わり、柔らかな⾷感とともに絶妙な味わいを醸し出すのです。
蓬乃餡餅は、いわゆる朝⽣菓⼦(あさなまがし)といわれる、朝つくり、その⽇のうちに⾷べていただくお菓⼦ です。特にこの蓬乃餡餅のような餅菓⼦は、時間の経過とともに固くなるのを避けられません。つき⽴て餅の柔 らかさがお好みの⽅は、ぜひ開店後お早めのお求めをお勧めします。職⼈のおすすめは、⼣⽅頃の蓬乃餡餅。少 し時間が経ったことで朝ついた餅が締まり、餡と馴染んで全体の味が落ち着くのがこの頃なのです。できたての柔らかさを楽しめる朝の時間と、味の調和が楽しめる⼣⽅の時間。ひとつのお菓⼦で時間によって変化する味わいも、ぜひお楽しみください。⼣⽅をさらに過ぎて、餅が少々固くなったとしても、実はまだまだ楽しめるのです。油をひかず、温めたフライパンに蓬乃餡餅を指の腹で押し広げて焼いてみてください。細かいことは気にせ ずに、中の餡がはみ出してきても⼤丈夫。お好みの焼き⽬が表裏についたらできあがり!あつあつを⼿掴みで、 そのままパクリとお楽しみください。
蓬乃餡餅は特にこの押し焼きにしていただく⾷べ⽅が⼤好きだという職⼈や店員も多く、鈴懸の主⼈もその⼀⼈です。餅に少し砂糖が⼊っているので、焼けば表⾯がパリっと仕上がります。内側の餅はつきたての柔らかさが蘇り、餡も蓬も温められたことで⼀層⾵味が増します。お客様から教えていただいて、店員の中でも⼈気の⾷べ⽅となっているのが、この押し焼きを楽しむ際に胡⿇油で焼くこと。⾹ばしさが加わり、またひと味違った美味しさが⽣まれます。葉物系の独特な⾵味が苦⼿な店員でも、この胡⿇油で焼いた蓬乃餡餅は美味しいと、毎年店頭に並び始めるのを⼼待ちにしてしまうほどなのだとか。フライパンを⽤意せずとも、平たく押し広げてトースターでこんがり焼くのが好みだとか、柔らかなままをコーヒーと合わせて楽しむのが好きだとか、鈴懸社内でもそれぞれに好きな⾷べ⽅談義が⾊々と広がるお菓⼦です。
和製ハーブとも呼ばれ、薬草の⼀種としても知られる 蓬は体を温めてくれたりと体に嬉しい効果もあるだけでなく、その⾹りは⼼を落ち着かせるようなリラックス効 果もあるといわれています。春の⾷養⽣として苦味を取り⼊れることは、とても良いとされています。この時期 の⾝体にやさしい蓬を、お好みの⽅法で美味しく楽しみながら、春の気を巡らせてみてみてはいかがでしょう。