世界中で例年とは違う毎⽇が繰り返されるようになって、早2年の⽉⽇が経ちました。年末年始の様⼦も、以前とは異なる⽇々が過ぎゆく中、それでも少しずつ前年とは違う光を感じている⼈も少なくはないでしょう。鈴懸の⼯房でも新たな年を迎える準備で、いつにも増して職⼈たちの⼿の動きが早くなってきたように感じます。毎年、年末年始だけ店頭に並ぶ縁起のいい⼲⽀菓⼦や迎春上⽣菓⼦の準備が今年も始まり、活気をみせています。
来る2022 年の⼲⽀は⼗⼆⽀の3番⽬にあたる「寅」。⼗⼆⽀には、それぞれに込められた意味があり、寅年の⻁は「⼀⽇にして千⾥往いって千⾥還かえる」といわれるほど活⼒に満ち、⾏動⼒のあるさまとして喩えられます。これは、勢いの盛んなことの喩えと、ほかにももう⼀つ、千⾥を⾛ったあとでも巣⽳にいる仔⻁を思って千⾥の道を帰ってくる愛情の強い⺟⻁の仔を思うがゆえの⾏動⼒の喩えともされているのです。また⻁は「決断⼒と才智」の象徴としての意味があり、縁起物とされています。鈴懸の「寅」の⼲⽀菓⼦は、今までにない初めての意匠で登場します。雄々しい背中の⻁模様を模した「絆」は、⻩⾝餡を練って寒梅粉でつないだ桃⼭製。中は⻩⾝餡を包み、表⾯には卵⻩で艶を出しています。ひとつひとつ違う表⾯の焼き⽬の具合が、⻁の貫禄ある背を思わせ、ゆったりと静かに佇んでいるようにも⾒てとれます。堂々とした⻁そのものを感じさせながらも、味は表も中も卵づくしのしっとりとした、やさしい味わいに仕上げています。⼀⽅、同じ時期に登場する⼲⽀の棹菓⼦は、浮島製。下には⾖を敷き、ふんわりとした浮島の柔らかな⾷感と⾖のほっくりとした味わいが絶妙な味わいを醸す⼀品です。こちらも⻁の背の模様を配しているのですが、「絆」の静のイメージの⻁とは違い、草を駆ける姿を思わせる動のイメージの⻁を表したお菓⼦です。
ほかにも、年末年始の店頭には新年を迎えるにふさわしい縁起のいい迎春上⽣菓⼦も揃います。冬でも⻘々とした緑を保ち、不⽼⻑寿の象徴とされる「松」は、求肥で豌えんどう⾖のつぶあんを包んでいます。常緑で寿命も⻑く、平安と⻑寿に繋がるとされる「⽵」は、抹茶と⽩⼩⾖のつぶあんで、⾊鮮やかな若⽵を表しています。雪の中で花をつけ、正気と華やかさを表すとされる「梅」は、滑らかなこしあんを紅⽩のねりきりで、ふっくらとした桃の形に包みました。さらに⼀つの幹から紅⽩の梅が⼀緒に成⻑する相⽣の様を表した、紅⽩の⼭芋のきんとん「咲分さきわけ」や、やわらかく⽢煮した⽜蒡と⽩味噌の餡を求肥でふわりと包んだ「葩餅はなびらもち」など、お正⽉を華やかに彩る上⽣菓⼦は12 ⽉25 ⽇からお正⽉三が⽇の、この時期だけのお菓⼦です。新年の福を願いながら、⽬でも⼝でも楽しんでいただければ嬉しく思います。
今では楽しみしていただいている⽅も多い⼲⽀の掛け紙は「張り⼦の⻁ ―戯⻁―」。⽇本画家の神⼾智⾏先⽣が繊細に描く、可愛らしい張り⼦の⻁と戯れる愛らしい⽩⻁の姿です。⽩⻁は中国の伝説上の神獣である四神の⼀つとされています。そして、書家である桑原呂翁先⽣による「寅」の⼀⽂字が書かれた紙袋も年末年始だけの限定でご⽤意しております。どちらも12 年に⼀度だけの登場です。どうぞこの機会をお⾒逃しなく。強靭な⽣命⼒であらゆる厄災を振り払い、「家運隆盛」を導くともいわれる⻁にあやかり、寅年の2022 年は皆様にとりましても、⼒強く前に新たな⼀歩を踏み出せる⼀年となりますことを、⼼から願っております。