7月7日は五節句の一つ、七夕(しちせき、たなばた)です。節句には季節の変わり目という意味があり、無病息災や作物の豊作を祈り、お供物をして邪気を払う行事が古くから行われるなど、一年のなかでも節目の日として大切にされてきました。七夕の節句は、織姫と彦星の伝説による星まつりの行事が各地で行われるなど、短冊に願い事を書いて飾る七夕飾りがお馴染みです。この七夕飾りですが、笹竹に飾る以外にも、短冊の前身である「梶の葉飾り」というものがあることをご存知でしょうか?奈良時代の頃、成長が早く、手に入りやすい笹竹を用いた笹の葉飾りが庶民の間で用いられたのに対し、貴族たちの間では古代中国より伝わった乞巧奠(きっこうでん)の儀式にならい、織姫にちなんで裁縫やはた織り、詩歌の上達を願って梶の葉に書き記して飾られていたのだそうです。
梶の木は御神木であり、さらに紙の材料としても尊ばれてきた植物です。青々とした梶の葉は、裏側に柔らかな産毛があって墨を吸収しやすいため、文字を書くこともできるのです。この梶の葉に願い事をしたため、水を張った角盥(つのだらい)という平たい器に浮かべ、願いを天に届けることが乞巧奠の慣わしでした。笹飾りを用いた庶民も、梶の葉を用いた貴族たちも皆、一様に願い事を星に届けていたのですね。
笹飾りに用いる願い事を書く短冊は、本来、陰陽五行説という考え方に由来しているため青(緑)・白・赤・紫(黒)・黄の5色が使われます。それぞれの色には意味があり、青は「仁」を表し「人を思いやる、人間力を高める」、白は「義」を表し「正しい行いをする」、赤は「礼」を表し「祖先、両親への感謝の気持ち」、紫は「知」を表し「学業向上、習い事の上達」、黄は「信」を表し「誠実、友や人間関係を大切にする」という思いが込められています。今は、ご自宅に笹竹を飾るスペースをつくるのも難しい人も多いのではないでしょうか。限られたスペースの中でも、昔の貴族にならい梶の葉に願い事を書いて水盤に浮かべてみたり、願いに合わせた色紙で短冊をつくり、少しだけ飾りつけてみるのも良いですね。一年を過ごしていく中で節目となる節句の日に、古くから大切にされている行事の意味を知り、今の時代に合わせて暮らしに取り入れてみてはいかがでしょうか。そういえば、節句には行事食がつきものです。七夕には行事食として「策餅(さくべい)」という小麦粉のお菓子や、笹にまつわる食べ物を食べると無病息災につながるとされてきました。笹に包まれた麩乃餅は、まさに七夕の行事食にぴったりのお菓子です。今年の七夕の夜、あなたはどんな願いを星に届けますか?