秋うらら

連載 すずなり

本来なら11月といえば秋も深まり、すぐそこに冬の気配を感じながらも木々が美しく彩られる時期。いつの頃からか、暦では秋となっても夏のままのような気候が続くようになってしまいました。四季のある日本。厳しい冬が終わり、草木がだんだんと芽吹き、新しい季節の巡りを花々が喜んでいるかのように爛漫に、淡く輝く春。強い光を放ち、力強い熱気が溢れる夏がふと落ち着き、冬へ向かうまでの合間の美しく静かなひとときの秋。春も秋も、この曖昧な季節の合間にこそ日本の美しさがあるように思います。今は秋。昔と比べれば、この美しい季節の合間はわずかな時間となってしまったように感じますが、それでもやはり空の厚い雲は気配をひそめ、空気は澄み、木の葉は紅や黄に色濃く装いを変えています。秋の木々が紅葉する様を、何色もの糸で織られた錦の着物のように美しいと例えた「錦秋(きんしゅう)」という言葉があります。和菓子は季節の移り変わりをお菓子に映し、旬の素材をつかって見た目も味もその美しさと美味しさを、体に心に取り入れていただくことができるものです。鈴懸でも11月になると次々に秋ならではのお菓子が登場します。上生菓子「錦繍(きんしゅう)」は、紅葉がまるで錦の着物が折り重なっているかのように美しく山肌を彩った様子をきんとんで表したお菓子です。

「紅葉」は晩秋の紅く艶やかに色づく木の葉の一枚を表したお菓子。自然にある紅葉同様に、葉一枚の中に見られる紅や黄、橙と秋らしい色合いをこなしでグラデーションにし、古くから職人の手でさまざまに細工を施すのに用いられた菱形の木棒で葉の先端まで細やかに形造られています。小豆のこし餡がやさしい味わいです。

紅葉が終わり、葉がすっかり落ちて冬の気配が深まる頃の様子を模したお菓子「冬木立(ふゆこだち)」。秋から冬へと移り変わり、すっかり色を無くして寂しげな様子にも、静寂さが持つ美があります。葉を落とした木々に雪が降れば、雪の花が咲いたように幻想的な美しい景色となり、凛々しく立ち並ぶ樹の幹には、厳しい冬を乗り越え、やがて来る春を迎えるための溢れる生命力を感じ取れるかのようです。冬に移りかわる自然の様子を映した「冬木立」も「紅葉」と同様に、菱形の木棒で細工されて表します。夏から冬に移り変わる、気持ちよく過ごせる美しいひとときの秋。季節がだんだんと移り変わっていくように、鈴懸のお菓子も2週間ほどで新しい季節のお菓子が登場します。冬までのひとときの間、日本ならではの秋の美しさを、和菓子でもぜひご堪能ください。

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