異国情緒+日本趣味

連載 すずなり

「落雁」や「干菓子」と聞いて、皆さんはどんな印象をお持ちでしょうか?茶道を嗜まれている方はお茶菓子として親しまれているかもしれませんが、多くの方はお盆などの御供菓子として花や野菜をかたどったものといったイメージが強いのではないでしょうか。でも、お菓子はお菓子。飾りとして細工や造形が美しいお菓子も素晴らしいのですが、鈴懸は普段から楽しめる、食べて美味しいお菓子を皆様にお届けしたい。そんな発想から生まれたのがtatamize(タタミゼ)です。

tatamizeは畳に由来し、畳に暮らす様式や日本びいき、日本趣味を意味するフランスで用いられている造語tatamiserにちなんで名付けられました。本来、落雁や干菓子は米や豆などの粉に砂糖や水飴を混ぜ、食紅などで着色して菓子型でかたどり乾燥させたもので、菓子木型の彫りや細工から生まれる美しさが特徴的です。鈴懸のtatamizeは形はもとより、“美味しい干菓子”をつくるという想いのもと素材は日本のものを使い、色は合成着色料は一切使用せずに素材の色そのものの美しさをいかし、さらに九州・福岡の地で営むお菓子屋である鈴懸らしさを表現したいと考えました。この基本的なコンセプトは、開発時から店主と職人ですぐさま合致したのです。

そうして選ばれた素材は、黄粉、黒胡麻、そして南瓜の3種でした。特に黒胡麻は店主が探し求めた国産・茨城産の貴重なもの。香りも味の濃さも外国産のものとは明らかに異なります。それぞれの素材に阿波和三盆と白あんで甘みと水分を足します。機械は一切使わず、全て手づくりで仕上げていく中で、日々異なる湿度に合わせて白あんを加減したり、黒胡麻は風味を出すために指先で潰しながら和三盆と混ぜ合わせたりと、職人の手先の感覚で整えられていきます。

鈴懸らしさは形にも宿ります。常々店主は、九州の中でも福岡という土地の特徴、面白さは、大陸に近いことに由来すると肌で感じているものがありました。そんな福岡の地でお菓子屋を営む鈴懸がつくりだす干菓子のカタチとは?と模索する中でたどり着いたのが「南蛮七宝柄」でした。この文様は、天地左右に円が繋がることから縁、円満、子孫繁栄を表し、また円と円の間にできるダイヤ柄は光る星を思わせ、また見え方によっては花にも十字の繋がりとも見て取れ、縁起のよい文様として古くから用いられてきた異国情緒溢れるモダンなものです。この文様の特徴的な2つの形である円とダイヤを、それぞれ菓子木型に起こすこととしました。発売当初の20年ほど前から使用している木型は胡麻の油分や白あんの水分が馴染み、すっかり一人前の顔つきをして他の年季の入った菓子木型と一緒に道具箱の中に並んでいます。黄粉と黒胡麻は円で抜かれ、それぞれダイヤ型で抜かれ南瓜と組み合わさって南蛮七宝柄を成し、2種類のtatamizeとして店頭に並びます。縁起柄ですから贈り物としても最適で、その名前や形の由来もティータイムの話題を提供し、海外のお客様にも日本の福岡のお土産としてお選びいただいているようです。

畏まらずに気軽に楽しんでいただきたいとの思いから、ぱくっと一口で食べられるひと口大。伝統的な漆の器に整然と並べても、モダンなガラス器にラフに置いても馴染みますので、食べる楽しみだけでなく盛り付けや器選びなどでも幅広く楽しんでいただけるのではないでしょうか。和菓子、とくに干菓子は緑茶や抹茶との相性は抜群ですが、ぜひこのtatamizeは慣例に捉われずにコーヒーや紅茶など、お好みの飲み物と合わせてみてください。お子様のおやつには牛乳と合わせてみても喜んでもらえるかもしれません。老若男女どなたにも、かしこまったお席でも、普段のおやつにも、食後に甘いものが少しだけ欲しい時にでも、口の中でじんわりと溶かしながら味わっても良し、ぽりぽりと噛み砕いて広がる余韻を楽しんでも良し。干菓子って案外、懐の広いお菓子なのかもしれません。tatamizeで日常のティータイムをちょっと豊かに楽しんでみませんか?

連載 すずなり

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