つづく

連載 すずなり

鈴懸 麻布台ヒルズ店100年前。日本は大正時代。その頃を象徴する生活様式やファッションは、日本の伝統文化を残しながら西洋の文化が入り混じった日本独特のスタイルで「大正ロマン」と呼ばれ、今もなお若い人たちにも人気があるようです。そんな華やかで自由な空気をまとう一方で、「大正デモクラシー」といわれる政治的な大衆運動が盛り上がったり、大戦が始まったりと決して穏やかとは言いがたく、たった15年間の短い時代でありながら、これまでの日本の暮らし方や考え方を様々に揺さぶる、激動の時代でもありました。そんな100年前、鈴懸は誕生したのです。今よりもっと空が大きく広がっていた福岡の地で、激しくうねる時代の波の中で生きていた人々の、心休まるひとときに大福やどらやきなど、今も変わらず店頭にならぶお菓子が寄り添えていたのであれば嬉しいことです。100年経った今、地元・福岡の方たちだけでなく、東京にも店舗は増え、全国の皆様に味を知っていただけるまでとなりました。そして、この11月にも、新たに東京の麻布台に鈴懸の店舗を構えさせていただく運びとなりました。

鈴懸 連載すずなり つづく麻布台ヒルズは、「大都市の中でありながら緑に包まれた、人が人間らしく生きていける環境づくりを目指した街」をコンセプトに、新しい試みに満ちながらも人々の暮らしの原点回帰ともいえる都市づくりが進んでいます。そんな一角に構える店は、白く冴えた和紙に淡く浮かぶ店の名である鈴懸の文字でお客様をお迎えします。全て、額装を手がける矢部博史さんの手によるもので、長きに渡り自然に寄り添って和菓子作りをしてきた鈴懸の想いを発想の源に、額装のみならず作品として仕上げてくれました。店名の由来ともなっている鈴懸の木(プラタナス)で炭をつくり、現代の複製技術の起源ともいえるステンシル技法を用いて仕上げられています。自然の素材を用いながら新しい技法で表現された矢部さんの作品は、100年の時間を積み重ねても毎日変わらず大地からいただく素材を大切にいかし、その時代の人々に美味しいと思っていただけるよう、塩梅を見極めて少しずつ変化させてきた鈴懸のあゆみと重なります。

鈴懸 連載すずなり つづく鈴懸のお菓子作りは、革新的なものでも斬新なものでもありません。きっと100年前も楽しんでいただいていたであろう大福は、今の鈴懸のお客様にも美味しいと思っていただけるよう、これまでの伝統や習慣を軽んじずに手間暇かけて作り続けています。ただ、同じ大福であっても100年前に美味しいと思われていた味が、今も同じとは限りません。人が感じる美味しいという感覚は、時代とともに変わっていくものです。昔のように甘みが強いものではなく、今の時代の“甘い”や“美味しい”と思っていただける感覚に合わせ、都度、塩梅を変えています。お菓子の姿は変わらずとも、材料の配合などをわずかにでも変えながら、親しんでいただける味を提供し続けていくことが、進化なのだろうと思うのです。これからも鈴懸はただひたすらに、美しい日本の自然に寄り添い、日常の中で「美味しい」と思っていただけるお菓子作りを続けてまいります。

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