歌会始で菓⼦始

連載 すずなり

新年の宮中⾏事として催される「歌会始(うたかいはじめ)」。すでに奈良時代には⼈々が集まって共通の御題で歌を詠み、披講する「歌会」が⾏われていたことが万葉集に記されています。中でも、天皇が年の始めの歌会としてお催しされるのが「歌御会始(うたごかいはじめ)」。この⽇本の和歌における⼤切な伝統⾏事にちなみ、全国の菓⼦司は歌と同じ御題のもとにつくる和菓⼦「御題菓⼦」をつくります。歌会始で定められる御題は翌年のものが発表されますので、歌⼈たちが次の年に発表する歌へ想いを巡らし始めるのと同様に、和菓⼦職⼈たちも1年がかりで、その時々に定められた御題をもとにお菓⼦をどう形づくるか⾃由に発想を広げ始めるのです。

鈴懸では職⼈だけでなく、店主もおかみさんも⼀緒になって思案します。発想をそのまま形にして試作を繰り返すこともありますが、ときには古語辞典を開き、まずは御題の⾔葉の意味を深く理解しながら連想ゲームのように発想を膨らませていくのです。いただいた⾔葉から発想しそれを形にしていく作業は、⼈それぞれに違う景⾊を思う様⼦が⾒て取れ、いつも⼀緒に働いている鈴懸の職⼈や社員たちでも知ることの無かった感性が表れてくる特別で楽しい時間でもあるのです。短い⾔葉だけで壮⼤な⾵景も、⼈の気持ちの機微も表す⽇本の和歌の素晴らしさや、それを詠む歌⼈の発想の豊かさには感嘆するばかりですが、職⼈たちも普段の菓⼦づくりとはまた違った発想を繰り広げて和菓⼦を⽣み出すことができる、この御題菓⼦の取り組みは⽇本⼈らしい豊かで贅沢な時間なのかもしれません。
2022年の御題は「窓」。鈴懸はこの御題から、窓は外からの光を内へ取り込むものでありながら、内から外の景⾊を覗くことができ、また窓を境に⾳・光・⾵といった様々なものを通わせるもの。内と外との繋がりをもたせて世界を広げる⼤事なものだと解釈しました。⼈は窓からの⾒慣れた景⾊に⼼を和ませたり、ほっと安らぎを感じることができます。或いは、⾃分が外にいるときには⾒えなかった物事が、窓を通して切り取って⾒ることで改めてその先に広がる⾵景に想いを馳せることができることもあるようにも思うのです。
そんな解釈から職⼈が「窓」を和菓⼦に形作ったのは、ふんわりと平らで真⽩な薯蕷製。ほのかに紅や⻩⾊がのぞきます。薯蕷⽣地は境となる窓そのものを表し、⽣地と中に包んだ滑らかなこしあんとの間には、紅⾊の梅⼲しを裏漉しした⽺羹と⻩⾊のゆず⽺羹を透かせることで、窓の外に陽だまりがやさしく浮かぶ景⾊や、外から家を⾒た時にその窓の内側にある温もりや暖かさを感じる団欒の灯を表しています。ふんわりと蒸し上げた薯蕷⽣地のやさしい⾷感と⼭芋の⾵味に梅と柚⼦が⾹り、ほんのりと華やかな新春の訪れをも感じさせる窓のようにも感じていただけるのではないでしょうか。
御題菓⼦「窓」に、鈴懸では「景⾊と⾵景」を想い描き、形にしました。2022年、たくさんの窓の内や外に和やかな優しさで満ちた時が流れてくれることを願いながら、店頭にて1⽉3⽇までお届けいたします。

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