真っ⽩

連載 すずなり

「かるかん」と聞いて、すぐにお菓⼦を思い浮かべることができる⽅は、もしかしたら九州ご出⾝の⽅なのではないでしょうか。かるかんは通常、⽶粉の⼀種であるかるかん粉と⼭芋と⽔というシンプルな材料でつくられたお菓⼦で、主に⿅児島の銘菓として知られ、九州や⻄⽇本の⽅には馴染みのあるお菓⼦です。⽩さがひと際冴えた⽺羹のような棹菓⼦でありながら⽺羹よりも軽いことや、⽣地を蒸し上げると蒸す前よりも軽くなることから「軽羹(かるかん)」と名付けられました。元々は真っ⽩な四⾓い形をしたものでしたが、後につくられるようになった餡⼦を中に包んだかるかん饅頭も⼈気です。

発祥は諸説ありますが、薩摩藩主であった島津⻫彬が保存⾷の研究のために江⼾から招聘した菓⼦職⼈によって考案されたという説が有⼒とされています。かるかんの「羹」の字は、中国では汁物をさすことから、⼤陸にそのルーツがあるのではないかともいわれているようです。⿅児島の地はシラス⼤地ですから⽔捌けが良く、⾃然薯が多く⾃⽣していました。さらに当時はとても⾼価で貴重だった砂糖が、⿅児島はさとうきびの産地である奄美地⽅や沖縄からも近かったことから⼿に⼊りやすかったため原材料となる⾃然薯や砂糖が揃い、⽣産されやすかったようです。⾃然薯がたっぷりと使われているので滋養があり、疲労回復のおやつとしても喜ばれました。薩摩藩主の献上菓⼦としてや、祝いの儀式に備えられる格式の⾼いお菓⼦として⽤いられていましたが、やがて明治の頃には庶⺠にまで広がって九州各地でつくられ、今もなお親しまれているのです。

鈴懸の商品にも「かるかん」があることをご存知でしょうか。実は「⼼葉(とろろ)」という名前のお菓⼦が、かるかん饅頭なのです。「⼼葉」という名前は、原材料である⼭芋の葉がハート形をしていることから付けられました。「とろろ」はご存知の通り、⼭芋をすりおろしたものです。鈴懸では粉は⽶粉、⼭芋はつくね芋をたっぷりと使い、⽬が詰まったきめが細かい⽣地に蒸し上げ、しっとりとした軽やかな⾷感としています。中には喉越しのよい滑らかなこしあんを包み、⼩ぶりのかるかん饅頭に仕⽴てています。かるかんをつくるのに⼀番重要な材料となる⼭芋の種類を古くからのままの⾃然薯なのか、つくね芋であるかでも味わいは変わり、もちろんそのほかの材料の配合や蒸し上げていく技術によって、ひとくちにかるかんと⾔ってもさまざまに個性をうみ出します。他に類を⾒ないほど潔いほど真っ⽩なこの饅頭を、鈴懸では先⼊観を持たずに、まずは味わってみて欲しいとの思いから「かるかん」ではなく、特徴的な優しげな形をした葉から名前を発想し「⼼葉」といたしました。⼩⻨粉でつくった滑らかな⼝当たりの饅頭とはまた違う、ふんわりとした軽やかな⾷感と、かるかんならではの特有の⾵味をお楽しみいただきたいのです。

先⽉ご紹介したcastilla(カスティラ)と同樣に、かるかんも九州発祥のお菓⼦として古くから親しまれ続けています。九州の地には⼤陸の影響を⾊濃く受け、独特の⽂化や歴史があり、そのためお菓⼦にも材料やつくりかた、名前の由来まで趣あるものが多種多様に存在します。古くは贅沢品であった砂糖も⼿に⼊りやすい⼟地柄から⽢いお菓⼦が各地でたくさんつくられ、今に続いています。地元で揃う材料を⽤い、背景に深く刻まれた歴史をみることができる九州ならではのお菓⼦を鈴懸は、これからも⼤切につくり続けていきたいと思っています。

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