2022年もいよいよ年の瀬が迫り、なんだかいつもの街並みを行き交う人々の様子も慌ただしさが増してきました。来たる2023年は卯年。閉塞感に満ちた最近の空気をぴょんと飛び越えて、来年は晴れ晴れとした年を迎えたいものです。お正月を迎えるにあたり、皆様もお正月飾りの準備を始められている頃でしょうか。お正月飾りのしめ縄を玄関に飾ったり、鏡餅を飾ったりするような神事にまつわる儀式や、節句などハレの日に神様へお供えするために普段の生活の場を儀礼的な装飾をして整えることを“室礼(しつらい)”といいます。ことのほかお正月の室礼を大切にされている方は多いことでしょう。しめ縄を飾る日は、神様に誠意を欠き縁起が悪いとされる一夜飾りを避けたり、鏡餅の下に敷く懐紙の折り方や、三方の向きはどちらが正しい?など、“正しくは”どうするのだっけ?なんて、毎年調べて慎重に設える方も多いのではないでしょうか。新しい年神様をお迎えするためなのですから、古くから伝わる習わしを“間違いなく”、“正しく”しようとする日本人の几帳面さは素晴らしいことです。
以前、フランスのパリに住む友人のお宅を訪ねた時に、鈴懸のお菓子に季節の掛け紙をかけてお土産にしたことがありました。彼女は日本らしい図案の包装紙の上に、さらに巻かれている掛け紙を手に取り「日本のセンスは美しい!」と大喜びでした。その時は二月の節分の頃でしたので、表には真っ赤な鬼の顔、折り返した箱の底部分にお多福がにこやかに微笑んでいる掛け紙です。節分の豆まきのときの掛け声「鬼は外、福は内」にちなんだ絵の配置の面白さや、日本画家の神戸智行先生の筆による繊細な筆致にひとしきり感激してくれたかと思うと、その掛け紙をダイニングの窓にラフにテープで貼って「素敵!」と飾りつけたのです。そんな彼女の行為を私自身も嬉しく思ったのと同時に、なんだかはっとしたのを覚えています。と、いうのも、日本人は手土産にいただいたお菓子の掛け紙を「素敵」だと思ったら、どちらかといえば大切にしまう方が多いような気がします。ですが、フランスの友人の「素敵!」と心が動いた瞬間に自分の生活に取り入れてしまう軽やかさに、なんて素敵なことだろうと、私の心が震えたのです。日本人のように習わしを尊び、“正しくあること”を大事にすることは決して悪いことではありません。神事のように正しく行わねばならないことも、もちろんありますし、大切なことです。でも生活の中での室礼は、もしかしたらもっと気軽に、その気持ちこそを大切にして取り入れてみても良いのではないかなと思うのです。
新年を迎えるにあたり、本店でのみ、三日と四日の二日間だけの数量限定で、2023年の干支「卯」の耳を配した特別な鈴乃○餅が登場します。この卯年の鈴乃○餅を、例えば塗りのお盆にいくつか配して飾ってみるだけでも一気に正月の雰囲気が調います。新年を迎える掛け紙は、可愛らしいウサギの様々な動きを捉えた姿が神戸先生の手により写しとられています。例えばこの掛け紙をフランス人に倣い、いつもの部屋の壁に溶け込ませるように貼ってみるのも、卯年ならではの楽しい室礼となるのではないでしょうか。鏡餅だって、餅が足りない!裏白を買い忘れた!昆布も飾らなくてはいけなかったっけ‥‥なんて、正式な飾り方となっているかと心配したり、揃わないものを気にかけるよりも、神様をお迎えする気持ちこそが一番大切なこと。ときには、鏡餅に見立てて○餅を重ね、その上には橙ではなく鈴乃最中を一つ。鈴懸のお菓子でつくった鏡餅のお飾りなんていかがでしょう。もちろん、年神様への思いは込めて。生活の中での室礼は、気持ちこそ大事にすれば、その調え方は少し力を抜いて楽しんでみることも大切だと思うのです。“正しく”あることを追求しすぎて、揃わないことで何もできないでいるよりも、日々の生活をもっと楽しむために節句や行事を取り入れてみてはいかがでしょう。2023年はウサギのように皆様が心軽やかに過ごせますようにと願っています。