大福口福

連載 すずなり

もちもち、ほっくり、あまじょっぱい塩豆大福は、和菓子好きのみならず根強い人気の一品です。工房では毎朝早くから、引きが強い彦太郎糯を杵で丹念に何度も何度もつくことで、とろりと柔らかく伸びる餅に仕上げます。この餅がつかれる〝どんどんどん〟といった音は、店主が幼い頃から朝の目覚めのリズムでした。餅がつかれているそばで、中に入れるほんのり塩味の赤えんどう豆や、鈴懸ならではの優しい味わいのこしあんも整えられていきます。
そもそも大福は、室町後期の餅とあんこでつくられた「うずら餅」が起源とされています。うずらの卵のような形からとも、うずらのふっくらしたお腹に似ているから名付けられたともいわれているように、大きい上に、餅とあんこの組み合わせで腹持ちが良いことから「腹太餅(はらぶともち)」とも呼ばれていたのだそうです。これが後の江戸時代で庶民にも親しまれるようになる頃には、「大腹餅(だいふくもち)」と呼ばれるようになり、「腹」の文字をめでたい佳字の「福」に書き換えられて今の「大福餅」となったのだとか。当時、砂糖は大変貴重なものでしたから、あんこの甘みは少なく、小豆自体の味が強かったようです。そのわずかな甘みを引き立てるように塩を加えてくつられたのが塩大福の始まりとされています。
鈴懸の塩豆大福に用いる豆は、水で戻すとまん丸になる赤えんどう豆。ほんのり塩味で蜜漬けされた赤えんどう豆を、成型したときにぽこぽこ美しく飛び出すように、潰れているものは一つずつ手で除き、どこを噛んでも豆が口に入るように7粒ずつ餅にやさしくふんわりと押し込められます。そこに塩分を調整して、いつもより少しだけ柔らかめの塩豆大福用に炊かれたこしあんを重ね、職人の手の中でまあるく包まれていきます。
大福は、ぱくりとかぶりつくのが醍醐味。お腹がふくらむ満足感たっぷりのおやつです。発祥当時の江戸の頃には、生の餅だけでなく、焼いたものも親しまれていたといいます。お求めになったら、餅が柔らかいうちはそのままお召し上がりいただき、少し時間が経って餅が固くなった場合は、先人にならいフライパンに押し焼きして頂いても、また違った味わいで美味しいですよ。この焼き塩豆大福を楽しみにしている方もいるほどです。焼かれてもなお、もちもちとした餅に、ほっくりとした豆の食感、甘いあんこに、ほんのりと甘みを引き立てる塩味がいい塩梅です。シンプルな姿ながら、食感も味わいも豊かでいて、生でも焼いても美味しい塩豆大福は、今も昔も変わらず人気が高い和菓子であることに納得してしまいます。鈴懸では今の時期にお求めいただける塩豆大福だけでなく、秋には栗餅、冬には黒豆大福、春には蓬乃餡餅、そして初夏の6月頃には本大福と様々な大福餅が登場しますので、どうぞ季節ごとに変わる食感、味わいをお口いっぱいにお楽しみください。

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